「ビオチン」は多くの食品に含まれ、腸内細菌からも合成されるため、「不足する心配のないビタミン」としてあまり重要視されることが少なかったりするのですが、実は腸内環境が良くないと欠乏しやすい栄養素なので注意が必要!そんな「ビオチン」について解説します。
ビタミンH=ビオチンの名前の由来
「ビオチン」はビタミンB群に属する水溶性ビタミンの一つで、「ビタミンH」(ビタミンB7)とも呼ばれます。
時はさかのぼること1920年代、ドイツの研究者がネズミに大量の卵白を与え続けたところ、脱毛や皮膚炎を起こしたという実験を報告しています。その後、別の研究者により、この皮膚炎を予防する因子を発見して、ドイツ語で「Haut=皮膚」の頭文字をとって「ビタミンH」と命名しました。一方、酵母の成長因子として発見された成分が「ビオチン」と名付けられたのですが、その後ビタミンHとビオチンは同一物質であることが分かったという経緯があったのでした。
ビオチンの働き
ビオチンは糖のリサイクルや脂肪酸合成、アミノ酸の代謝に関わる重要な補酵素として働きます。また、ミトコンドリアのエネルギー代謝活性に直接関わる重要な補酵素としても知られています。ビオチンが不足すると体内の糖新生がスムーズにいかなくなったり、たんぱく質が作れなくなったりするため、疲労感や筋肉痛、皮膚炎、アトピー、ニキビ、乾癬、脱毛、白髪、免疫力低下、結膜炎、血糖値の上昇、不眠、味覚障害、うつ病などといった症状が出るようになります。
特に、糖尿病や乾癬、掌蹠膿疱症などの人はビオチンが不足しがちになるので、ビオチンの静注が適応される場合もあります。
また、脂肪酸の代謝補酵素として働き、酸化ストレスや炎症体質の改善のためにも必要な栄養素でもあります。
ビオチンが不足しやすい人
ビオチンは卵や肉類、魚介類、野菜などに広く含まれます。
ビオチンは「腸内細菌で合成することもできるし、さまざまな食品に広く含まれているので、不足の心配はないのではないか?」と思われがちですが、実は意外と不足しやすい栄養素の一つなのです。
腸内でビオチンを生成する善玉菌に「アシドフィルズ菌」(乳酸菌)があります。一方、腸内にはビオチンをエサとする悪玉菌も存在します。
健康な腸であれば、アシドフィルズ菌が優勢な状態を保っているのですが、ビオチンが不足しているとビオチンをエサとする悪玉菌が優勢な状態になってしまいます。このような状態になっている場合、いくらビオチンを含む食品を積極的に摂ったとしても、むしろ悪玉菌のエサを増やすばかりとなってしまい、長期にわたってビオチン不足が続くという悪循環が起こることもあります。
つまり、ビオチン不足にならないためにも腸内環境を整えることは極めて大事!ということです。特に、多量の抗生物質や過度なストレス、極端な糖質制限食、食物繊維が少ない食事などは腸内環境が乱れる原因となりますので注意が必要です。
その他、ビオチニダーゼ欠損症(先天的にビオチンを利用するための酵素が欠損している病気)や、生卵※を毎日10個ぐらい多量に食べ続けると(そんな人はまずいないと思いますが)ビオチンの欠乏症が起こることが知られています。
(※卵自体にはビオチンが豊富にふくまれるのですが、生の卵の卵白に含まれる「アビジン」というたんぱく質が腸管でのビオチン吸収を妨げます。)
ビオチン療法について
アトピーや乾癬、掌蹠膿疱症などになっている場合、皮膚のビオチンが不足してると考えられます。
しかし、ビオチンが足りないからと言ってビオチンだけを補っても、かえって腸内環境を悪化させてしまうことにもなりかねません。
そこで、ビオチンと共に、腸内の善玉菌の働きを高めてくれる酪酸菌(宮入菌)を主成分とするミヤリサン錠、さらに、ビオチンの作用を高めてくれることでも知られるビタミンCを一緒に経口摂取するのが「ビオチン療法」です。ビオチン療法はこれらの症状の治療として、クリニックなどでも取り入れられています。
ビオチン不足を気にしていてサプリメントを摂ろうと思っている方は、ミヤリサンとビタミンCも一緒に摂ると良いでしょう。また、サプリに頼るだけでなく、必ず腸内環境を整える食生活を意識していきましょう!
まとめ
・ビオチン(ビタミンH)は糖やたんぱく質、脂質の代謝にも欠かせないビタミン。不足すると肌や髪の毛のトラブル、免疫力低下や血糖値の問題なども起こりやすくなる。抗酸化や抗炎症のためにも欠かせない。
・ビオチンはさまざまな食品に含まれるだけでなく腸内で生合成もされるが、腸内環境が悪いと不足してしまう。
・掌蹠膿疱症などの治療法として用いられるビオチン療法では、ビオチンとミヤリサン、ビタミンCを一緒に摂取する
・やっぱりここでも、腸内環境が大事!