糖新生のしくみ

糖新生とは??

動植物がエネルギーとして利用する「ATP」を作り出すためには、グルコースが不可欠です。「糖新生」とは、文字通り糖以外のものを材料にして糖(グルコース)を合成する反応のことです。

糖以外の材料とは、主にアミノ酸・乳酸・グリセロール(グリセリン)・プロピオン酸の4つです。

(その中でも特に重要なのはアミノ酸と乳酸と覚えておきましょう)

肉食動物と草食動物はどっちが先に誕生した?!

植物は、光合成をすることによって炭水化物を作り、グルコースを直接エネルギー源として利用することができます。

植物を主食としない肉食動物はどうやってグルコースを得るかというと、
体内で「糖新生」という少々手間のかかる化学反応を行うことで、グルコースを合成する必要があります。

もちろん、私たち人間にとっても、「糖新生」は必要なエネルギーを得るために重要なシステムですが、
ライオンや猫のような肉食動物は、私たち人間のような雑食動物に比べ「糖新生」に必要な酵素の活性が高く、主にたんぱく質を分解して得たアミノ酸から糖新生を行って、生きていくために必要なグルコースを作り出しています。

ところで、陸上に棲む肉食動物と草食動物は、どちらが先に誕生したのだと思いますか?

大昔の地層から発見される生き物の化石を調べると、最初は全て肉食動物で、草食動物の祖先となる生き物は肉食動物よりもだいぶ後に誕生したことが推測されると言われています。

草食動物のように、すでに地上に繁茂していた植物を利用できる種族が出現したことは、動物の進化の過程においてとても大きな出来事であったと考えられます。

なぜなら、植物が作り出した炭水化物を摂取することは、他の動物を捕食する労力に比べるとはるかに効率的でリスクも少なく、手間のかかる糖新生も省略することができるからです。

こうして草食動物はある意味「楽な」生き方を選択したおかげで、肉食動物よりも個体数を増やすことができた反面、少数の肉食動物の餌食となって生態系の食物連鎖を支える宿命を背負うことになったのです。

アミノ酸からの糖新生

アミノ酸は炭素原子の4本の腕のうち3本にそれぞれ「カルボキシル基」(-COOH)、「アミノ基」(ーNH2)、「水素原子」(-H)がついていて、残りの一本の腕にさまざなま構造の基が結合することでいろいろな性質を生み出しています。

糖新生によってエネルギー源になることができるアミノ酸は、「糖源性アミノ酸」と呼ばれます。

糖源性アミノ酸から糖新生をしてエネルギー源として利用するためには、アミノ酸から「アミノ基」(ーNH2)をはずす必要があります。

アミノ酸からアミノ基をはずしたり、逆に結合させたりする反応を「アミノ基転移反応」といいます。

アミノ酸基転移反応を行うためには、「アミノ基転移酵素」と呼ばれる酵素が必要となります。

血液検査でよく測定される「ALT」や「AST」もアミノ基転移酵素の一種ですね。

ALTの値が低すぎる人は糖新生が上手くいかないので、低血糖などの問題が起こりやすい状態であることが予測されます。

(逆に、ALTが高すぎる場合は脂肪肝などによる肝臓の炎症が疑われます)

アミノ酸から外れた「アミノ基」は生体にとって有害なアンモニアとなり、肝臓で無毒な「尿素」に変換され、腎臓から尿中へと排せつされます。

このようにしてアンモニアを尿素に変換するシステムは「尿素回路」とよばれます。

プロテインを飲み過ぎている人の近くに寄ると、ツンとした臭いを感じたことはありませんか?

たんぱく質を摂り過ぎるとアンモニアを肝臓で処理しきれず、アンモニアが血液中に移行し、汗と混じって「アンモニア臭」が出ていると考えられます。

肝機能が低下している場合もアンモニアの処理が充分にできなくなってきますので、「最近疲労がたまっていて体臭(疲労臭)がきつくなってきた」なんていう人も、要注意です。

乳酸からの糖新生

糖新生の材料の一つとなる乳酸が存在する需要な場所といえば、筋肉です。

特に、速筋(白筋)はミトコンドリアに乏しく解糖系の代謝が優勢で、酸素がなくても瞬発的な収縮をします。

筋肉内で解糖系によって発生したピルビン酸は乳酸となって蓄積し、糖新生によって糖に変換してエネルギー源として使うことができます。

ただし、筋肉の細胞は自分で糖新生を行うことはできません。

そこで、筋肉に蓄積した乳酸は血液中に放出され肝臓に運ばれ、肝臓内で糖新生によって再びグルコースに変換されることができます。

この流れを「コリ回路」(乳酸回路)と言います。

また、空腹時に全身に大量のグルコースを動員する必要がある時は、筋肉細胞は乳酸をピルビン酸⇒アラニンに変えて血液中に放出し、肝臓でこれを再びピルビン酸に変えて糖新生に利用するという機構も備わっています。

この流れは「グルコースアラニン回路」とよばれます。

ピルビン酸⇔アラニンの反応には、アラニンアミノ基転移酵素(ALT)が必要となります。

グリセロールからの糖新生

中性脂肪はグリセロール脂肪酸でできています。

1個の中性脂肪の分子が分解されると、1個のグリセロールと3個の遊離脂肪酸となり、脂肪酸はミトコンドリアの外で「アシルCoA」という物質になって、これがクエン酸回路に入ってエネルギー源となります。

一方のグリセロールは、解糖系を逆行してグルコースへと変換される経路にいきます。

これがグリセロールからの糖新生です。

プロピオン酸からの糖新生

プロピオン酸は、主にセルロースを反芻して消化する草食動物の消化管で大量に発生する短鎖脂肪酸の一種で、これが糖新生によってグルコースに変換され、反芻動物の重要なエネルギー源となります。

草だけを食べる草食動物にとって、プロピオン酸からの糖新生は重要なシステムとなっているのですね。

ちなみにプロピオン酸は人間の腸内でも作られますが、人間にとっては糖新生の材料としてそれほど重要なものではないといえるでしょう。

糖新生が行われる臓器はどこ?

糖新生が行われる場所は、肝臓と腎臓です。

肝臓は主に全身の血糖維持のために糖新生によってグルコースを合成する重要な役割をしています。

腎臓による糖新生は、全身の血糖の維持の目的ではなく、腎臓自体のATP供給のために糖新生を行っていると言われています。

カラダの中で最もATP消費の高い臓器は筋肉で、2番目に多いのが腎臓。
夜間の睡眠時は単位重量あたり筋肉よりも多いATPを消費します。

なぜなら、睡眠中は腎臓は「レニン・アンギオテンシン・アルドステロン系」を働かせるために忙しいからです。

「レニン・アンギオテンシン・アルドステロン系」とは、ナトリウムの再吸収による血液量の調整機構を働かせて体内の水分を引き留める機構です。この時にATPがたくさん必要とされるため、腎臓でも糖新生が行われていると考えられます。

 

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