多くの精神疾患や行動障害は、単に心の問題だけではなく、脳内の神経伝達物質のアンバランスが大きく関係しているということができます。
「こころ」の正体とは
生化学的に言えば、人の思考、行動、感情はすべて、神経伝達物質が脳細胞から脳細胞に伝えられることによってつくられています。
脳内物質は100種類以上あるといわれていますが、
その中でも主要なものは10種類ぐらいです。
中でも私たちの精神状態に深くかかわる神経伝達物質は、
セロトニン、ドーパミン、アドレナリン、ノルアドレナリン、GABA、グルタミン酸など。
神経伝達物質は、脳内で継続的に作られています。
その原料となる栄養素の不足があったり、バランスが崩れたりすると、
神経伝達物質の不足や過剰となり、その結果様々な精神的な問題が起こることになります。
そして、神経伝達物質を合成する原材料は、
私たちが食べ物から摂取するアミノ酸、ビタミン、ミネラル、その他の天然の化学物質です。
栄養療法と精神疾患
栄養療法界では、
ほとんどの精神疾患や行動障害には
脳内の神経伝達物質のアンバランスが大きく関係していることから、
その大元となる体内の栄養素の状態を生化学的に分析して、
それに見合った栄養素の補充を行うことで症状の改善が期待できる
という考え方が常識となっています。
例えば、うつ病の患者さんの多くはビタミンB6レベルが低いといいますが、
これは、B6不足がセロトニン不足を引き起こすことに起因すると考えられます。
なぜなら、セロトニンはアミノ酸のトリプトファンから合成されますが、
最終段階で補因子としてビタミンB6を必要とするからです。
また、ドーパミンを作るには、鉄と葉酸が欠かせません。
ノルアドレナリンはドーパミンから作られますが、
このときに銅が重要な役割を果たします。
亜鉛やビタミンB6は、GABAの合成と調節のために必要となります。
さらに、犯罪性に関わるような反社会性パーソナリティー障害ではたいてい、
亜鉛不足、酸化過剰、低メチル化、有毒金属の上昇が組み合わさっていて、
妄想型統合失調症では、高メチル化、葉酸不足、血中の銅レベルの上昇が見られると言います。
精神疾患と向精神薬
心が健康であるためには、脳の神経のつなぎめ=シナプスにおいて、
神経伝達物質が適切な量で、適切な活動をする必要があります。
シナプスにおける神経伝達物質の量は、
神経伝達物質の再取り込みに関わる輸送たんぱくの量によって左右されます。
このことから、ほとんどの向精神薬は、
シナプスにおける神経伝達物質の活動を変化させることで効果を発揮します。
例えば、うつ病に用いられる「SSRI」という薬は、
シナプスにおける輸送たんぱくの働きを抑制し、
セロトニンがシナプスに長くとどまるように働きます。
精神科の薬物治療の現場では、
うつ病患者には半ば自動的にセロトニンをふやすために
SSRIが処方されることが多いです。
しかし、ウイリアム・ウォルシュ博士によると、
「うつ病患者のうちセロトニンレベルの低下があるのは全体の38%に過ぎない。
治療の前には脳の生化学状態を検査するべき」としています。
また、精神科で処方される薬は、人間の身体にとって異質の分子であり、
副作用が起こるという欠点もあります。
SSRIを例に挙げると、副作用としてよくみられるのが、
自殺リスクの増加、興奮、敵意、不安、不眠症、体重減少や増加、症状の悪化など、、。
うつ病を治すために飲んだ薬の副作用で精神状態が悪化してしまったのでは、
本末転倒だと思いませんか??
その反面、栄養療法によるアプローチは
もともと身体の中にある分子を取り入れることによって症状を改善していくので、
副作用の心配がほとんどありません。
今回紹介したウォルシュ博士は独自の理論を確立し、
世界中のドクターに講演をして回っている方で、
「精神疾患に対する栄養療法といえば、ウィリアムウォルシュ博士」
と言われています。
ウォルシュ博士は囚人支援のボランティアで殺人犯の脳の分析を行ったのをきっかけに、
20年にわたり2800人のうつ病患者に対して生化学検査を行い(データ数は30万件以上を超える)脳の状態を分類しました。
その研究結果を元に、
薬と同様に効果的で、しかも副作用のない栄養療法を体系化した内容が
「栄養素のチカラ」に書かれています。
日本においても、私が所属している「臨床分子栄養医学研究会」をはじめとして、
精神疾患の治療にこの理論に基づいた栄養療法を取り入れた治療を行う医師が増えつつあります。
精神疾患と栄養療法に興味がある方は、「栄養素のチカラ」をぜひ読んでみることをおすすめします!