エネルギーを生み出す「ミトコンドリア」機能をアップさせて、細胞を元気にする方法について解説します。
細胞の中にある小さな臓器たち
私たちの体を作っているのは約37兆個もの細胞であると言われていますが、その細胞一つ一つの中には、「細胞小器官」と呼ばれる特殊な「小さな臓器」が存在しています。
細胞小器官を呼ばれるものは、「リボゾーム」・「ゴルジ体」・「リソソーム」・「ペルオキシソーム」・「ミトコンドリア」・「小胞体」があり、それぞれが異なる機能を持ち、細胞機能のすべてを担っています。
ミトコンドリアの構造と働き
「ミトコンドリア」は、細胞内で「ATP」(=細胞のエネルギー源)を作りだす重要な場所で、「細胞の発電所」とも呼ばれます。
ミトコンドリアは、平坦な外膜と折り重ねられた形状の内膜の二重膜の構造から成り、内膜の構造は「クリステ」とよばれ、折り重なった形状がエネルギー生産をおこすための表面積を増大させています。内膜に囲まれた中央の空洞の部分は、「マトリックス」と呼ばれます。マトリックスには、ミトコンドリア内の代謝機能に関わる酵素がたくさん存在しています。
細胞にしっかりと栄養素を送り届け、ミトコンドリアを最適な状態で機能させることは、豊富なエネルギーを供給し私たちが元気に生きていくために欠かせません。
ミトコンドリア機能はエネルギー代謝に関わる甲状腺の機能にも大きな影響を与えます。ミトコンドリア機能が落ちれば甲状腺機能も落ちるし、甲状腺機能が落ちればミトコンドリア機能も落ちる、という相互関係にあるのです。
ミトコンドリア機能と、「小胞体ストレス」
ミトコンドリアは細胞機能の中でも非常に重要な役割を持つ部分でありながら、とてもダメージの影響を受けやすい小器官でもあります。
なぜなら、ミトコンドリア内で行われるエネルギー(ATP)の産生は、酸素を必要とする反応なので、それに伴い活性酸素の害も受けやすくなるからです。また、ミトコンドリアと同じく細胞小器官の一つである「小胞体」との関りが非常に深く、ミトコンドリアと小胞体は互いに影響しあいながらその機能を保っています。
小胞体には、物質の合成と輸送という大切な役割があります。中でも注目したいのが「たんぱく質の工場」としての役割です。
たんぱく質は、遺伝情報に基づいてアミノ酸が配列され、そのアミノ酸配列に応じて固有の立体構造に折りたたまれて作られていきます。ところが、小胞体機能に異常があると、立体構造が乱れたたんぱく質が作られてしまいます。たんぱく質の立体構造は少しでも乱れていると、たんぱく質として機能しなくなってしまいます。すると小胞体からたんぱく質が出荷できずに「便秘」を起こして太ってきてしまいます。これを、「小胞体ストレス」といいます。小胞体とミトコンドリアには接触部位があり、お互いに影響をしあっているため、どちらかの機能が落ちるともう一方の機能低下に影響する、という現象が起こります。
したがって、小胞体ストレスをなくすことは、ミトコンドリア機能を上げるために重要ですし、ミトコンドリア機能を上げることは、小胞体機能を上げるためにも重要であるということになります。
小胞体ストレスをなくすために重要なキーワード①「オートファジー」
例えば、ガンなどの疾患は、細胞の「アポトーシス」がうまくできないことによって起こると言われています。
「アポトーシス」とは、細胞が必要に応じて(遺伝的な指令に基づいて)死ぬこと、つまり、プログラムされた細胞死のことです。アポトーシスは、不必要な細胞を除去するシステムとして働きます。
プログラムされた細胞死には、「オートファジー」と呼ばれるシステムもあります。「オートファジー」は、細胞内のたんぱく質を分解するための仕組みで、栄養環境が悪化した時(飢餓時)にたんぱく質のリサイクルを行うシステムです。つまり、細胞内の不要なたんぱく質を分解することで、飢餓時の生存システムとして働きます。これによって、小胞体ストレスが解消されます。
アポトーシスやオートファジーがうまく働けば、危険な細胞や細胞内の老廃物、損傷したミトコンドリア、変性したたんぱく質等を除去することができ、それが疾患の発症を抑制できると言われています。
小胞体ストレスをなくすために重要なキーワード②「ヒートショックプロテイン」
細胞内の小胞体ストレスがある状態とは、たんぱく質の不良在庫をたくさんかかえてしまっている状態。
このような状態では、小胞体と運命共同体ともいえるミトコンドリアの機能にも影響が出て、エネルギー生産がしづらくなり、身体全体の機能に悪影響が起こります。そこで、オートファジー機能を活性化させて小胞体の在庫を一掃して、正しい立体構造のたんぱく質を作れるようにしてあげれば、小胞体ストレスが改善され、ミトコンドリアも活性化して、細胞が元気になるというわけです。これは、ガンなどの疾患の予防にもつながります。
そのために役立つのが、「ヒートショックプロテイン」(分子シャペロン)と呼ばれる物質です。
ヒートショックプロテインは、たんぱく質分子が正しく折りたたまれるのを助けてくれるたんぱく質で、細胞に短期的な刺激が加わることで出てくることが分かっています。
つまり、適度なストレスは、分子シャペロンを作ることを促してくれるので、細胞にとって良い刺激になるということです。
ヒートショックプロテインは、不良たんぱくを良いたんぱくに修復するだけでなく、細胞の障害がひどく修復不可能な時は、細胞を死へ導いてくれる(=アポトーシスを促す)といわれています。
ミトコンドリア機能をアップさせるための具体的な方法
ミトコンドリア機能をアップさせるには、細胞を活性酸素の害から守り、必要な栄養を十分与え、小胞体ストレスをなくしていくことが重要となります。
①栄養素の補給
ミトコンドリアの働きを良くする栄養素としてよく知られているのは、ビタミンB群、コエンザイムQ10、亜鉛、マグネシウムなど。ミトコンドリアを酸化の害から守るために、抗酸化ビタミン(ビタミンA・C・E)をはじめとする抗酸化作用のある栄養素も積極的に摂るようにしましょう。コエンザイムQ10は、抗酸化作用がある栄養素としても重要です。また、細胞内にしっかりと栄養素を送り届けるためには細胞膜の流動性を高めてくれるフィッシュオイルも有効であると言われています。(摂取のタイミングは寝る前が〇)
②ヒートショックプロテインの活性化
ヒートショックプロテインを刺激するための適度な刺激として、高地トレーニング(低酸素トレーニング)、寒中水泳、一分間の息止め、朝日を浴びる(紫外線)なども有効であると言われています。温熱療法でヒートショックプロテインを増やすというのも、おすすめの方法の一つです。
③断食
断食によってオートファジーを活性化し小胞体ストレスを解消することができると言われています。(本格的な断食までは無理!という場合でも、まずは空腹時間をしっかりと作るようにするだけでも〇)
④運動
適度な運動は、ミトコンドリアの新生を促します。ミトコンドリアも筋肉と同じで、使わなければ減ってしまいます。(使わなければ減ってしまうことを「廃用性萎縮」といいます)
⑤動物性たんぱく質の摂りすぎに注意
代謝機能が落ちているのに動物性たんぱく質を摂りすぎていると、小胞体ストレスが起こりやすくなると言われています。その理由は、動物性たんぱく質の方が人間の体に近いので、細胞の外に未消化の動物性たんぱくのペプチドがあふれていた場合、小胞体が「たんぱく質の在庫がまだある」と勘違いしやすく、新たなたんぱく質の出荷を止めてしまう、つまり、小胞体ストレスになりやすいのだと考えられています。
ただし、身体が元気で日ごろからたくさん運動していて、多くのたんぱく質を必要としているような人は、どんどんたんぱく質を供給した方が良いと言えるでしょう。